あずさジャーナル
journal

ファンレター

2017.05.25

大江健三郎さんの全集が、来夏刊行開始だという。

大江さんが全集刊行に寄せて発表したコメントの、
「私はこうして小説を書く人間となり、その連続性を生き、生を終えようとしています」という言葉に胸が詰まる。焦る。つらい。

今から9年程前、私は就職が決まって浮かれ、加藤周一さんの『夕陽妄語』シリーズを一度に買った。加藤さんのファンであった。報道の仕事に就くことになっていたため、いつか何かの機会にお会いできるのではないかなどとあらぬ妄想をしていた。しかしその年、加藤さんは亡くなられた。89歳であった。

私は訃報を新聞で目にして、ショックでぼんやりとした。89歳。亡くなられてもおかしくない。私はなんてのんき者だったのだろうと後悔した。ファンレターを出せばよかった、もうこの人は同じこの「世の中」からは去ってしまわれたのだ、と悲しくてならなかった。いなくなってしまわれたのだ、と。

それ以後、私は「いつかお会いできたら」「素晴らしいかただ」と思う人には勇気を出してファンレターを書くようにした。「手紙魔」。ミーハーでお恥ずかしいが、ある女性芸能人にも何度かファンレターを書いた。このかたからは何とお返事があり、私はいまも自室にそのお手紙を飾っている。宝物である。

会いたい人に会えることなんて極めて稀である。夢のままとっておくのが幸せでもある。けれどもその人の仕事や存在に救われたり、励まされたりしたことを、時には伝えたくなるのも人の心、ではないだろうか。胸にそっと秘めておくのも大切だが、感謝を伝える「ファンレター」は悪いものではないはずだ。

昨年、むのたけじさんが亡くなられた。私は『週刊金曜日』の企画でむのさんと対談をさせて頂くことが出来た。むのさんは私のこころの中の「ファンレターを出さねばリスト」の筆頭のかたであったので、お会いする夢が叶って天にものぼる心地だった。
けれど、改めてお手紙を書く前にお別れとなった。

人生のなかで、私たちはたくさんの「遠くにいる憧れの人」を見つける。作家やアーティスト、俳優、ミュージシャン、ジャーナリスト……。同じ時代にその人が「生きて」いてくれることが嬉しい、自分も頑張ろう、と思える存在が、私たちには何人もいるはずである。憧れを伝える喜びも、時には味わえる。

けれど残念ながら、「遠くにいる憧れの人」は突然、私たちのいる世の中を去ってしまうこともある。私はその喪失感が大きくて、加藤周一さんが亡くなられて以後、「手紙魔」となった。今は仕事に忙殺されて殆ど機会を持てずにいるが、やはり手紙を書きたくなる。

大江さん、全集、何だか寂しいです。

あずさジャーナル一覧へ
PDFダウンロード
社民党
社会民主党八王子総支部事務所
〒192-0053 八王子市八幡町14-13
TEL/FAX : 042-626-7545
佐藤あずさのFacebook 佐藤あずさのtwitter

Page Top