あずさジャーナル
journal

この街の路上で

2014.11.20

私たちはいま、どんな時代に生きているのでしょう。

10年前、田舎から東京にやって来た私は、駅のホームで呆然としていました。バスも電車もない故郷の山奥の地域から、東京へ。次々に発着する中央線を前に、「どうしてこんなに沢山電車が来るのに、みんな駆け込んで乗ろうとするのだろう」と圧倒されていました。

 

新宿のガード下で、路上生活者の男性に出会いました。ぼろぼろの灰色の服を着て、鳥の巣のような頭をして、段ボールの上に座っていた男性。そばには飲み終わったワンカップのお酒の瓶がぽつんと置かれていました。私はショックを受けて、「お寒くないですか」と声をかけました。男性は顔を上げて、充血した目でこちらを見上げましたが、じろっと私の顔を見ただけで、何も言葉を発しませんでした。

どうしたらいいのか何も考えのないまま声をかけてしまった私は我に返って、「そうだ、この人が“寒い”と言ったとして、一体自分に何ができるのだろう」と思いました。

 

「寒いですから、お気を付けて」と無責任な言葉だけを残して、私は家路につきました。振り返ったとき、もう男性はこちらを見ていませんでした。何事もなかったかのように、再びうつむいて段ボールの上に座っていました。

 

えー、危ないよ!なんで声かけたの?

 

都心で育った大学の友人たちは驚きました。

「なんで声かけたの」。

私は「見たことがなかったから」と答えたような記憶があります。

見たことがなかった。どうしたらいいのかもわからなかった。

 

東京に暮らして10年、私は路上にうずくまる人を沢山見ました。そして次第に、声をかけたり、視線を向けたりすることをやめるようになりました。けれど飲み会の帰り、友人たちと大騒ぎをして戻る途中、視界の片隅に、灰色の服の人々がいました。酔っ払ってぽわんとした頭に、「忘れないで」と誰かの声が響いたような気がしました。

 

いつだったか、雪の降りしきる新宿西口の広場で、靴磨きをしている女性を見ました。皆がコートの襟を合わせて足早に通り過ぎるなか、ぼろぼろの薄い服を着て、お客さんの靴を磨き続けていた高齢のその女性の顔を、今でも覚えています。

 

今日、八王子駅の地下通路入口の階段に、若い男の人が座っていました。

がっくりと首を垂れて、疲れた様子で座っていました。きちんとした服装をした人でした。

何があったのだろう、何か辛いことがあったのだろうか、と思いながら私はその横を通り過ぎました。通り過ぎることに慣れてしまうことは、とても悲しいことだと思いました。

 

いま私は、5分後の電車を待つことが出来ずに中央線に駆け込みます。

「人身事故」というアナウンスを聞いて、「誰かが電車に飛び込んだの?!」とショックを受けていた20歳の自分。

「人身事故かあ、ああ、遅刻だなあ」、そう思って携帯に目をやる30歳の自分。

 

今日も中央線は、人身事故の影響で遅れています。

 

「忘れないで」。

それは自分自身の声であるような気がしています。

東京は豊かな街だろうか、日本は、豊かな国だろうか。

 

私たちはいま、どんな時代に、どんな街に生きているのでしょうか。

 

(2014年10月28日 Facebookに掲載)

あずさジャーナル一覧へ
PDFダウンロード
社民党
社会民主党八王子総支部事務所
〒192-0053 八王子市八幡町14-13
TEL/FAX : 042-626-7545
佐藤あずさのFacebook

Page Top